単行本 - 日本文学

【試し読み連載決定!!】第1章『シングルファーザーの年下彼氏の 子ども2人と格闘しまくって考えた 「家族とは何なのか問題」のこと』

 夫に別れを告げ家を飛び出し、宿無し生活。どん底人生まっしぐらのなか、「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまく」り、その体験を綴った実録小説『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』がベストセラーになった書店員・菜々子。

 転職した本屋で出会った新しい彼氏は小学生男子2人の子持ち。付き合うって何? 血がつながってなくても家族になれる? 「子どもを持つつもりじゃなかった」彼女が格闘しまくる、感動の実録私小説第2弾。#シン家族

本作の試し読みとして「プロローグ」」をアップしたところ、大反響!!
試し読みの連載が決定しました。毎週水曜日アップ予定です。 
出会い系サイトで人生が動き出した菜々子の次の冒険を
たっぷりお楽しみください。

 

本作がフルに読める!!シングルファーザーの年下彼氏の 子ども2人と格闘しまくって考えた 「家族とは何なのか問題」のことは3月下旬発売予定! 只今全国書店で予約受付中!!


第1章

子どもを持つつもりじゃなかった

愛はべつに美しいものではない

 出会い系サイトでいろんな人と会って本をすすめまくった日々の後、放浪癖がついてしまったのか、本屋から本屋へと転々としている。流浪の書店員。これを書いている今は都会の本屋で店長として働いているけど、この本が出る頃にはまた辞めていることだってありえる。
 かつてヴィレッジヴァンガードという会社で12年くらい働いていた。そこをすごく愛しているという気持ちがあったから、辞めてしまっても同じように別の何かを愛せるのだろうか? そんな会社や仕事に出会えるのだろうか? と考えると足がすくんで、当時はなかなか辞めることができなかった。
 結論から言って、何かを同じように愛することはなかった。どの場所にもその場所にしかない素晴らしさや、そこでしか出会い得なかった人がいた。遠い記憶はいつもやさしく心を温めてくれる。でもそれだけのことだ。執着を感じることはなかった。
 振り返ってみれば、ヴィレッジヴァンガードへの愛も、たいして美しいものじゃなかった。典型的なやりがい搾取のブラック企業で、ずいぶんひどい目に遭っていたんだなと理解したのは、辞めて客観視できるようになってからだった。楽しんでいるふりをして生きている、共依存みたいな関係だった。愛がきれいじゃないなんてこと、世界中のあらゆる文学に書かれているのに、それでもなぜか無意識のうちに美化してしまうから不思議だ。
 だけど、あの12年間、20代を過ごした時間に、数え切れないくらいの宝物を手に入れた。売るという仕事の楽しさ、店の仲間とひとつの目標に向かって力を合わせる一体感、その目標が達成されたときの喜び。休みなんていらない、と心から思えて仕事にのめり込めたこと。商品をどうやって売るかを毎日お客さんの反応をダイレクトに感じながら、試行錯誤し続けられたこと。徹夜作業中の午前3時の、どんな会話も面白くなってしまう深夜ハイ。そのあとみんなでぐったりしながら朝日を浴びたこと。すべてあの会社で本気でがんばらなければ手に入らなかったものだと思うと、どう考えたらいいか混乱してきて、頭を抱えたくなる。ブラック企業で働いている人に「そんな会社辞めれば」と言うことは簡単だけど、もし自分も誰かに「そんな働かせ方は異常だよ。辞めたほうがいいよ」と言われたとして辞めていたら、あれが全部手に入っていなかったのだ。
 それはもはや「私」ではない。だから答えを出せない。

 

 今ではヴィレッジヴァンガードもそうとうクリーンになったよ、と、今も働いている元同僚が教えてくれた。ただ、そういう時代だったのだと思う。

 私はヴィレッジヴァンガード、という愛の対象を失ったことで、しかし次の職場を同じように愛しはしなかったことで、次は、なんとなく、出版業界全体・本屋全体のようなものを愛してみようと思った。しかし、それは彼氏がいないからとりあえず合コンに行っているようなものだった。もう「愛」という言葉が違うのかもしれない。思いつめてしまいすぎないように、もっとライトな気持ちで関われたらいいのに。
 本屋にこだわっているわけではない、となぜか人に言い訳してしまう。でもずっと本屋を続けている、本屋でやりたいことはたくさんある─。
 そんな話をすると、やさしい大人の顔をした人たちは「天職なんでしょう」と言ってくれる。あ、無理やり誉め言葉を言わせてしまった、大人げなかったかな、と反省して笑ってごまかすのだが、違和感が残る。
 天職? これが?
 心の中で子どもの姿をした自分が「やだね」と言って笑いながら逃げていく。
 なぜだろう、認めたくない自分がいて、決めたくない自分がいて、答えを遠ざけている。

 何かに執着したくない。執着したら醜くなるから。どこまでも自由でいたい。いつも予想外のことが起きてほしい。旅みたいなのがいい。そう思って生きるようになっていた。

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