単行本 - 外国文学
スペイン語圏を代表する作家フリオ・リャマサーレスの自選短篇集が発売!——『リャマサーレス』短篇集「訳者あとがき」公開 - 6ページ目
木村榮一
2022.05.27
さらに幸運が続いた。それから数年後、敬愛するイタリア文学の研究者和田忠彦氏と雑談していると、ふと思い出したように和田氏がこう言った。「実は、この夏タブッキのところへ行ったんですが、その時にタブッキがこの作品は面白いよと言って、エンリーケ・ビラ゠マタスというスペインの作家の『バートルビーと仲間たち』をすすめてくれたんです。ぼくも目を通してみたんですが、とても面白かったですね。もしご存じなければ一度読んでみられるといいですよ」その言葉に従って、早速テキストを取り寄せて読んでみると、これがまた一風変わった非常に面白い小説で、夢中になって読みふけった。そのあともビラ゠マタスのほかの作品に目を通したが、おかげで前衛主義の流れをくむ綺想の作家ビラ゠マタスの、独特の雰囲気をたたえた魅力的な作品世界に親しむことができたのは、ぼくにとってこの上ない僥倖であり、喜びになったことは言うまでもない。
以上のようなことを長々と書き綴ったのは、外国文学を研究していて、これぞという作品になかなか出会えなかったとしても、決してあきらめたり、安易に妥協したりせず、辛抱強く探さなければならないと伝えたかったからなのだ。そのためにしっかりアンテナを張って情報を入手し、これぞと思える作品に出会うまで粘り強く探すことが何よりも大切だと思う。そうして倦まずたゆまず探していると、いつか幸運の女神が微笑んでくれるだろう。外国文学を対象に研究しようとすると、思ったように情報が入らず、焦りや苛立ちが生まれてくるだろうが、ここが辛抱のしどころだと覚悟を決めてかかれば、そのうちきっとあの女神が微笑んでくれるはずである。
この短篇集の出版に当たって、いろいろとご尽力くださった河出書房新社編集部の竹花進氏、そして訳者の拙い訳文に丁寧に目を通して、貴重な助言をくださった校正者の方には、この場を借りてお礼を申し上げておかなくてはならない。