単行本 - 外国文学

スペイン語圏を代表する作家フリオ・リャマサーレスの自選短篇集が発売!——『リャマサーレス』短篇集「訳者あとがき」公開 - 6ページ目

 さらに幸運が続いた。それから数年後、敬愛するイタリア文学の研究者和田忠彦氏と雑談していると、ふと思い出したように和田氏がこう言った。「実は、この夏タブッキのところへ行ったんですが、その時にタブッキがこの作品は面白いよと言って、エンリーケ・ビラ゠マタスというスペインの作家の『バートルビーと仲間たち』をすすめてくれたんです。ぼくも目を通してみたんですが、とても面白かったですね。もしご存じなければ一度読んでみられるといいですよ」その言葉に従って、早速テキストを取り寄せて読んでみると、これがまた一風変わった非常に面白い小説で、夢中になって読みふけった。そのあともビラ゠マタスのほかの作品に目を通したが、おかげで前衛主義の流れをくむ綺想の作家ビラ゠マタスの、独特の雰囲気をたたえた魅力的な作品世界に親しむことができたのは、ぼくにとってこの上ない僥倖ぎようこうであり、喜びになったことは言うまでもない。
 以上のようなことを長々と書き綴ったのは、外国文学を研究していて、これぞという作品になかなか出会えなかったとしても、決してあきらめたり、安易に妥協したりせず、辛抱強く探さなければならないと伝えたかったからなのだ。そのためにしっかりアンテナを張って情報を入手し、これぞと思える作品に出会うまで粘り強く探すことが何よりも大切だと思う。そうしてまずたゆまず探していると、いつか幸運の女神が微笑んでくれるだろう。外国文学を対象に研究しようとすると、思ったように情報が入らず、焦りや苛立ちが生まれてくるだろうが、ここが辛抱のしどころだと覚悟を決めてかかれば、そのうちきっとあの女神が微笑んでくれるはずである。

 この短篇集の出版に当たって、いろいろとご尽力くださった河出書房新社編集部の竹花進氏、そして訳者の拙い訳文に丁寧に目を通して、貴重な助言をくださった校正者の方には、この場を借りてお礼を申し上げておかなくてはならない。

 

1 2 3 4 5 6

関連本

関連記事

人気記事ランキング

  1. ホムパに行ったら、自分の不倫裁判だった!? 綿矢りさ「嫌いなら呼ぶなよ」試し読み
  2. 『ロバのスーコと旅をする』刊行によせて
  3. 鈴木祐『YOUR TIME 4063の科学データで導き出した、あなたの人生を変える最後の時間術』時間タイプ診断
  4. 日航123便墜落事故原因に迫る新事実!この事故は「事件」だったのか!?
  5. 小説家・津原泰水さんの代表作「五色の舟」(河出文庫『11 -eleven-』収録)全文無料公開!

イベント

イベント一覧

お知らせ

お知らせ一覧

河出書房新社の最新刊

[ 単行本 ]

[ 文庫 ]